中国沖タンカー事故のサンチ(Sanchi)油流出の件について -元海上保安官の私見-

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タンカー「サンチ(Sanchi)」の、ネット上で拡散されているこの事故。

約2年前まで、こういう事故の対応をしていた関係上、気になって調べました。

わたしもネット上のニュースを追いかけただけで、海上保安庁の元同僚とかにも連絡を取っていないので、条件は皆さんと同じです。

あくまでも、海上保安庁の発表とは全く関係の無いものだと認識してください。

海洋の油流出事故に対応した経験のあるわたし個人の見解ですが、記事にまとめました。

ご存じない方のために、まず事故の概要から。

 

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タンカーと貨物船の事故概要

イランから韓国へ向かっていたパナマ船籍のタンカーが上海沖で香港船籍の貨物船と衝突し、沈没した事故で、中国当局は18日、流出した油が4つの油膜に分離し、広さ100平方キロを覆っていると明らかにした。

タンカー「サンチ(Sanchi)」は6日、上海から約260キロの沖合いで貨物船と衝突し、1週間にわたり燃え続けた後に爆発し、14日に沈没した。タンカーの乗員32人は全員、死亡が確認されたか死亡したとみられている。

via: 海上4カ所に油膜と中国 上海沖タンカー沈没 – BBCニュース

 

中国交通運輸省などによると、タンカー「SANCHI」(8万5000トン)はイランの海運会社の所有で軽質原油「コンデンセート」14万トンをイランから韓国に運んでいた。6日夜に長江河口沖300キロで中国の貨物船と衝突。炎上しながら日本に向かって漂流し、14日に奄美大島(鹿児島県)の西約300キロの地点で火勢が強くなり、沈没した。乗組員のイラン人とバングラデシュ人32人のうち、3人は遺体で発見され、残りも生存は絶望視されている。

via: EEZ内沈没タンカーから油 日中海洋当局が対応 – 毎日新聞

まず、32名もの事故の死亡者の方のご冥福をお祈りすると共に、1人でも多くの命が助かることをお祈りします。

油流出事故の前に海難としても、大事故ですね。

そして、衝突した際に発火して爆発炎上という大変な状況になりました。

沈没地点の水深は、中国政府の発表によると115メートルということで、比較的浅いところのようです。

 

そして、事故から約1か月経過した先日(2月1日)にその事故で流出したと思われる油が、奄美大島に漂着して話題になっています。

1日昼前、鹿児島県奄美市の海岸で黒い油のようなものが広い範囲に漂着しているのが確認され、第10管区海上保安本部は、先月、奄美大島の沖合で沈没したタンカーから流出した油の可能性もあると見て調べています。

via: 300キロ沖沈没タンカーの油か 海岸に大量漂着 奄美 | NHKニュース

この油が沈んだタンカー「サンチ(Sanchi)」の物か特定できるかどうか、結構難しいと思います。

というのも、同じ重油でも産地が違うと性状が異なるんです。

果たして燃料油(A重油orC重油)なのか、積み荷の「コンデンセート」なのか。。。

同じかどうか正確に判断するには、実際に沈んだ船に積んでいた油(燃料油・貨物の油・潤滑油など)を持ってこなきゃならないんです。

これだけ大量の油が漂着したとなると、他に原因が考えられないので状況から見て「事故の油と思われる」ぐらいにしかならないんじゃないかと。。。

 

油流出による日本沿岸への影響

油が漂着したと聞くと、1997年1月2日に発生したナホトカ号重油流出事故を多くの人が思い出すでしょう。

この時に流出したのはC重油。

原油を生成する過程で、さまざまな油ができます。

身近な油でいうと、ガソリンだったり、軽油だったり、灯油だったりのいわゆる「白もの」といわれる揮発性の高い軽質油。

また、主に船舶燃料(ディーゼルエンジン)に使われるA重油やC重油、道路工事で使われるアスファルトなどの「黒もの」と呼ばれる揮発性の低い重油。

A重油は、重油の中でも軽い方でほとんど軽油と変わりません。

一方、ナホトカで流れたのは、C重油でとても粘度が高く揮発性の低い重油です。

船の燃料で使うときも常温では燃えないので「ヒーティング」といって暖めてからエンジンに送り込みます。

だから、冬の日本海で発生したあの事故は、気温が低いためにC重油が塊(ゲル状)になって三国沖を含む海岸に漂着したために大きな被害が出た事故でした。

 

とこが、今回の事故で流出したと考えられる「コンデンセート」は、もともと天然ガスを採取する際に地表で固まる物質で、産まれた環境からまるで違います。

成分的には「ガソリン」に近いみたい。

 

コンデンセートは、天然ガスの採収にあたり地表において凝縮分離した軽質液状炭化水素である[1]。天然ガスコンデンセート (natural-gas condensate) やコンデンセート油 (condensate oil) ともいう。液化天然ガスは常温常圧で気体である物質を−162℃以下まで冷却して凝縮させたものであるのに対して、コンデンセートは常温常圧で液体である。

via: コンデンセート – Wikipedia

 

参考:2 石油・天然ガス資源の基礎

 

つまり、露天では揮発しやすい性状です。

だから海上に流出すると、波や風で大気中へ急速に拡散消滅します。

それに今回は、約1週間も炎上しながら漂流しているので、ほとんど燃えちゃってると思いますよ。

沈んだ船からの流出油(C重油)が心配ですが、同じく貨物油とともに燃えていると思われるし、沈んだ船から出てくるとしてもポツリポツリだと思われるので、汚染がゼロだとは言いませんが、ネット上で騒がれているような被害は出ないと思います。

また、海中には油を分解する微生物がいるので、彼ら達が頑張ってくれます。

 

海洋生物への被害

確かにコンデンセートの中には有害物質が含まれていて、影響はゼロじゃないと思います。

ですが、30年以上前の潜水士時代にこんな経験をしたことがあります。

塩酸を積んだタンカーが漁業が盛んな街の沿岸部で沈む事故。

その、数日後に調査のため潜ったんですけどね。

潜る前は、わたし達も「大丈夫かな〜」ってちょっと心配していたんですが、潜ってみたら綺麗さっぱり無くなっていて、身体になんの影響も無かったし、もちろん漁業被害も無かったと記憶しています。

今回と同じ物質じゃないので、単純に比較できないと思いますが、今回は沿岸部から遠い外洋で起こっているので、まあ大きな被害は出ないんじゃないかなって思いますよ。

 

調査結果を発表しない件について

油って、一滴でも水面に落ちるととってもよく解ります。

ですから、航空機を飛ばして調査するのが一番効果的。

当然、10管本部も広い範囲を調査していると思うので、何の発表もないということは、大量の油を発見していないんでしょう。

有ったことは発表できても、無いってことをわざわざ発表する必要がないですからね。
無いという証明もできないし。

一部の報道に「海面下を漂流する」という記述が見受けられましたが、油は水より比重が軽いので水面下に沈むことはありません。
中学生でも解ります。

なので、性状がガソリンに近い油が消滅せずに事故から約1か月間海面を漂っていることなんてありえません、安心して良いです。

また、ネットで拡散された記事「Sanchi Oil Spill Has Already Caused ‘Serious Ecological Injury’」ですが、どうして英国の海洋調査機関だけ?という疑問も残りますが、彼らが心配しているのも直接的な油漂着などの海洋汚染ではなくて、海洋生物への影響のようです。

 

生態系への影響

 

リンク先のこの画像も、原文を読むと解りますが、生態系への影響を表した画像で油の漂着を表した画像ではありません

何処かで情報のすり替えが起きていますね。

国際環境NGOグリーンピースも生態系への影響の方を強調しています。

水槽で飼っている金魚への影響ならすぐ解るんでしょうが、大海原での出来事ですからね。

どうやって影響を調査したら良いのか、わたしも解りません。

それに、現役時代、空気中へ放出された有害物質の事故対応訓練は、何度もやったんですが、どんな物質でも空気より軽ければ、海上のような何も無い広い大気中に放出されると急速に拡散されますから、大気汚染の心配もありません。

 

まとめ

今回の騒ぎは、同じ原油だということで大騒ぎになったのだと思いますが、油の性状をよく理解せずに「油流出事故」ということで、過剰反応してのが原因だと思いますよ。

うがった見方をすると、報道の一部部分だけを切り取って不安をあおる、ただ単にアクセスを集めるための煽り記事または、内容をよく理解せずに書いている記事だったんじゃないかという感想です。

先ほどリンクした、毎日新聞社の記事にも最後にこう書かれていましたよ。

海洋の油汚染問題に詳しい東海大海洋学部の斉藤雅樹教授は「コンデンセートは元は気体のものを液化しており、長時間の火災などで流出油の大半が燃えたか気化してしまった可能性が高い。気化したものを吸い込めば健康被害が出る可能性があるが、沿岸からかなり離れた場所なら影響は考えにくい」と指摘している。

via: EEZ内沈没タンカーから油 日中海洋当局が対応 – 毎日新聞

あー、久々に真面目に記事書いたw

※冒頭にも書きましたが、今回の記事は、あくまでも1個人の私的見解であり、海上保安庁とは無関係です。

Written by メタル(@Metal_mac

 

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54歳で脱サラして新しい生き方を探しています。 4人家族に愛犬(柴犬)りゅう太1匹 Apple製品の使いこなしや、話題を追いかけたり、伊勢志摩でユーザーグループを主催して活動してます。
心理カウンセラー・コーチ